獣医師の日野です。
皆さんは鎮静剤と聞いて、どのようなことを想像しますか?
☑️ 麻酔と同じでしょ?
☑️ 身体に副作用があってリスク高そう
☑️ 怖い
飼い主様とお話ししていると、どうしても上記のような印象が独り歩きをしているように感じますが
実は、動物の安全と快適さを確保するために非常に重要な役割を果たしているのです❗️
使用することを恐れる大きな理由は、多くの誤解を持っていることで鎮静剤についての知識が不足しているからではないでしょうか。
今回は、飼い主の皆さんが鎮静剤について理解し、ペットの診療プロセスに関する不安を和らげる方法についてお話ししたいと思います。
質問あるある1
<鎮静剤とは何ですか?>
不安や恐怖を和らげるために使用される薬剤です。
これにより、ペットのストレスを最小限に抑えられます。
想像してみてください。。。
見知らぬ場所で、見ず知らずの人に、訳もわからず身体を触られる状況。。。
以前そんなアクション映画やホラー映画があった気がしますが、その主人公は叫び、暴れ、相当恐ろしい状況に感じていました。
自身の健康のためと、人は我慢したり理解できることでも、動物にとって受け入れることは困難です。
鎮静剤を使用してあげると、いわば寝ているような状態となるため、恐怖や不安も消失します。
また、猫ちゃんで多い現象ですが、緊張や興奮が過剰になると、頻脈という不整脈を起こします🫀
(いわば心臓もけいれんし、興奮しているような状態)
頻脈の程度によっては循環不全という状態に陥り、突然ぐったりしてしまったり、急変してしまうこともあります。
そのような状況にまで追い詰めないためにも、事前に鎮静剤を使用してあげることで、予測できない不整脈や循環不全を防ぐことが可能です。
質問あるある2
<どのような流れで鎮静剤を使用しますか?>
恐怖に感じてしまう子に対しては優しく声をかけながら、血管もしくは筋肉に注射を投薬します。
薬剤の種類や投与経路にもよりますが、10分もすれば鎮静効果が発揮されます。
鎮静がかかり始めると同時に、モニタリングを開始します。
モニタリングとは、循環、呼吸など、生命維持に必要な状態が確保されているかどうかの確認です。
これは鎮静や麻酔を安全に行うためにかなり重要ですので、定期的なモニタリングを徹底し、異常がある場合は必要な投薬、治療を行います。
そしてもう一つ重要なことは
モニタリングの結果を正確に解釈し
必要な投薬内容やタイミング、治療を正しく判断できる知識を備えているかどうかです。
こちらの判断は、知識量や経験値によって変わるため、かなり見極める力が必要です。
身体で起きている変化について把握できるかどうかは、麻酔を使用する際も同様であるため、今回の鎮静剤についてのご紹介では語れないほどの情報量ですが、別の機会を設け、飼い主様向けのブログとしてご紹介したいと思います。
質問あるある3
<麻酔と同じでしょ?>
麻酔薬と鎮静剤は異なります💊
少し詳しい話になりますが
麻酔薬は脳を麻痺させることで、意識を消失させ、身体の反射や感覚を鈍らせます。
手術において、不動化や筋肉を弛緩させることは重要な要素になるため、必要不可欠です。
麻酔薬の副作用はいくつか存在しますが、重要なものとして
呼吸を止める(→呼吸中枢の抑制、呼吸筋の弛緩)
循環の抑制(→いわゆる血流が悪くなる現象、血圧の低下)
が挙げられます。
生命を維持していくために必要な、呼吸、循環の機能が低下してしまう薬なので、私たち獣医師が最も使用を避けたい薬剤になります。
鎮静剤は神経に作用し興奮を鎮める薬です。
鎮静剤には、上記に挙げた麻酔薬のような副作用は少なく
呼吸は止まらない
循環の抑制は弱い(→ないわけではない)
よって、鎮静剤の使用は、麻酔薬より身体への負担は少ないと言えます。
質問あるある4
<身体への負担があってリスクが高そう>
どんな薬も体にとっては毒であるため、使用することでその分解や排出にエネルギーを消耗することから、臓器の負担は増えます👆
身体は薬を肝臓で解毒し、腎臓から毒素として排出するため、これら主要な内臓の機能が正常であれば、安全に薬を使用できる判断基準となります。
身体への負担やリスクについて客観的に評価し、安全に処置を行えるかどうかの確認を目的とした鎮静前検査を当院ではご提案しております。
☑️呼吸がゆっくりになる →呼吸器の異常がないかどうかをレントゲンにて確認
☑️心拍数がゆっくりになる →心疾患や血圧の異常をきたすような疾患の有無を心エコーにて確認
☑️薬物の代謝経路に異常がないかどうかを血液検査にて確認
最低でも上記三つの検査を行い、安全性の確認を行なった上で鎮静剤を使用します。
(※極度の恐怖や攻撃性が出てしまう子(主に猫ちゃん)に関しては、そもそも検査の実施が困難になるケースもありますので、飼い主様同意のもと鎮静剤を先に使用しなければいけないケースもあります。)
100%安全な麻酔及び鎮静は存在しないと言われておりますが、予想できるリスクを回避し、万が一の対応に備えることで、安全に近づける最大限の努力は行うことができます。
上記の取り組みに加え、当院のスタッフは他院への麻酔科実習などに積極的に参加していくことで、個人の技術発達や育成に励み、慎重な対応と医療のアップグレードを常に図っております。
鎮静剤はペットの手術や診療のプロセスにおいて重要な役割を果たします。
鎮静剤や麻酔薬の使用を諦めることで、ペットの健康を諦めるのは非常にもったいないことだと思います。
当院では、基礎疾患(主に心臓病や腎臓病など)があっても安全に処置ができるよう配慮しています。
基礎疾患があるから、鎮静や麻酔ができない訳ではありません。
・基礎疾患の今の状態を把握する
・基礎疾患に合わせた薬を選択する
・処置を通して悪化しないようモニタリングする
・処置後に基礎疾患の悪化がないか確認する
・最悪の場合、基礎疾患が悪化してしまった際に起こりうる症状などを飼い主様に共有し、早期に来院ができるよう心がける
動物のためにしてあげられることは、たくさんあります。
必ずしも、教科書通りが正解とも限りません。
何がペットにとって最善なのかを飼い主様と共に考え、健康と幸福を長く守っていくために協力していきたいと思っています😊
獣医師 日野
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